その日私は既に寝ていましたが、部屋の戸をがんがんと叩く音に目を覚ましました。何事かと思ったら熊谷が訪ねて来たのです。熊谷はクラスの同級生柴崎の

友人で知り合って日も浅く、大した付き合いも無いので何の用事かと思ったら、麻雀をしようというのです。

もう今日は寝てるからと断ったのですが、今秋田の実家から帰ってきた。京都駅から真っ直ぐここへ来た。麻雀をするのを楽しみに来た、と切々と訴えるのです。

熊谷ことクマは大人しくて、謙虚で人が良いやつで、妙に燃えているので、断り切れずにやる事にしました。

時間をみると夜の11時。その頃私は今までの怠惰な生活を改め、就職試験に備えて9時就寝5時起床で頑張っていたのです。好きだった麻雀も止めて中々決まらない

就職活動に少しピリピリしていました。

近所の柴崎のところに行くと柴崎と伊藤君がいて、和気あいあいと早速麻雀は始まりました。中でもクマは何がそんなに嬉しいのかと思うほどテンション高く

はしゃいで嬉しそうでした。

東1局私の親で、配牌で中が暗刻、白が2枚で発が1枚。ほどなく発を引いてポンすると白をつもり親の大三元を聴牌しました。すぐクマが放銃してくれました。

東1局の親の大三元。4万8千点です。皆大笑い。クマはあははと笑うしかありません。わざわざ秋田から帰って来て、やりたくてやりたくて寝てる私を起こしに来て

始めた麻雀で、始めたと思ったら親に大三元放銃。このために秋田から京都駅へ戻って、駆けつけて来たのかと思うと心境は如何ばかり。

それからクマも大三元を売ったショックか、点棒を取り返そうと一生懸命になったのかすぐ口数も減りました。クマ全く良いところが無く南入、また私の親です。

何と白、中とないて発と壱萬のしゃぼ待ち。発が出れば大三元です。白、中2色ないているので誰も振らないだろうと思っていましたが、クマは下手なので発切って

くるのではと心配になってきました。クマからは上がりたくありません。私はこういう時気の毒になってしまうのです。「高いから振るなよ」と私は宣言しました。

それなのにクマのバカは「一度振ってるからもういい、いけぇー」と言って発を切って来ました。本当に馬鹿な奴です。